毎年 6 月から始まる健診シーズンは、診療室での質問が一気に増える時期です。「区民健診で十分でしょうか?」「ドックを受けたほうがいいですか?」「PET-CT は?」 — 答えは年齢・既往歴・家族歴・職業によって変わります。本コラムでは、当院でよくお伝えしている「内科医視点での選び方」を整理しました。
1. 区民健診と人間ドックの最大の違い
区民健診は「異常を網にかける」スクリーニング、人間ドックは「異常を高い感度で拾う」精密検査です。これが最大の違いです。
区民健診 (世田谷区)
- 対象: 40-74 歳の世田谷区民、無料。
- 項目: 血圧・身体計測・血液 (脂質・血糖・肝腎)・尿・心電図・胸部 X 線。
- 強み: 無料。生活習慣病スクリーニングには十分。
- 弱み: がんの一次スクリーニング項目がない (大腸がん検診は別途、子宮頸がん・乳がんも別途)。
人間ドック
- 対象: 全年齢。当院 49,500 円〜99,000 円。
- 項目: 区民健診の全項目 + 胃カメラ + 大腸カメラ + 腹部 / 心臓エコー + 腫瘍マーカー + ABI / CAVI 等。
- 強み: 消化管がん・心血管疾患の早期発見に有効。当日結果説明あり。
- 弱み: CT / MRI が含まれない。脳ドック・PET-CT は別途連携病院。
2. 年齢・状況別の推奨パターン
20-30 代 (健康・既往歴なし)
会社の定期健康診断 + 区民健診の併用で十分。胃カメラ・大腸カメラは原則不要 (ピロリ菌検査の併用が、もし家族にピロリ感染歴があれば一度やる価値あり)。
40-50 代 (生活習慣病リスクあり)
区民健診 + 当院ドック「基本コース 49,500 円」(胃カメラ込み) を 2 年に 1 回。家族歴に大腸がんがある場合は大腸カメラ追加 (33,000 円) を強く推奨。脂質異常・高血圧の指摘がある方は、ABI / CAVI による動脈硬化評価も。
60 代以上 (がん発症ピーク年代)
当院ドック「標準コース 71,500 円」(胃 + 大腸カメラ込み) を毎年。家族歴に膵がん・卵巣がん・乳がんがある場合は、PET-CT (連携病院) を 5 年に 1 回検討。3 親等以内に複数の若年発症がんがある場合は、遺伝外来 (国立がん研究センター) への紹介を検討します。
女性 (35 歳以上)
子宮頸がん検診・乳がん検診は当院では実施していないため、女性外来クリニックや世田谷区指定施設で別途受診を。HPV ワクチン接種歴の有無も影響します。
3. 「とりあえず PET-CT を受けたい」と言われたとき
結論から言うと、無症状の方への PET-CT は推奨されない場合が多いです。理由は: 1) 偽陽性が一定数出て不要な検査が連鎖する、2) 早期がんは PET-CT でも見えないことがある、3) 被ばく量が大きい (約 8 mSv)、4) 費用が 100,000 円以上と高額。
とはいえ、家族歴・既往歴によっては有用な場面もあります。当院では PET-CT を以下の場合に限って連携病院 (東京医療センター・関東中央病院) へ紹介しています。
- 原因不明の体重減少・倦怠感・微熱が 1 ヶ月以上続く場合。
- 消化管がん・乳がん術後 5 年以内の経過観察。
- 3 親等以内に膵がん・卵巣がんが 2 名以上いる場合。
4. 結果が「再検査」「要精査」だったら
絶対に放置しないでください。当院ではすべての健診結果のフォロー外来を、保険適用で受けています。健診結果原本をお持ちの上、Web 予約・LINE で「健診結果相談」とお伝えください。多くの場合、追加検査または「経過観察で OK」の判断ができます。
5. 健診後の生活改善が、最大のリターン
健診の本当のリターンは「異常を見つけること」ではなく、「異常を見つけた後の行動」にあります。当院では管理栄養士による食事指導 (保険適用) を実施しています。HbA1c 6.0 以上、LDL 140 以上、血圧 140/90 以上の方は、ぜひ一度ご活用ください。
「健診を受けるだけで安心」ではなく、「健診の結果をどう使うか」が、健康寿命を分ける一番の分岐点です。
— 院長 神山隼人