健康診断で「血糖値が高い」「要医療」と書かれた紙を手にしたとき、多くの方が同じ反応をします。「自覚症状ないし、来年でいいかな」。糖尿病専門医として 22 年診療を続けてきた立場から、これは最も避けたい初動だとお伝えしています。本コラムでは、健診で血糖値の異常を指摘された方が、まず知っておきたい 5 つのことを整理しました。
1. HbA1c (ヘモグロビン エーワンシー) は「過去 1〜2 ヶ月の平均血糖」
健診結果には「空腹時血糖値」と「HbA1c」の 2 つの指標が並んでいるはずです。空腹時血糖値は採血したその瞬間の値、HbA1c は過去 1〜2 ヶ月の平均血糖を反映する値です。
判断基準のおおまかな目安:
- HbA1c 5.6 未満 — 正常範囲。
- HbA1c 5.6 〜 5.9 — 「境界型 (糖尿病予備軍)」。生活改善で改善可能。
- HbA1c 6.0 〜 6.4 — 「境界型 (糖尿病疑い)」。1 ヶ月以内の再検査推奨。
- HbA1c 6.5 以上 — 「糖尿病型」。糖尿病の診断基準。
当院では、健診結果原本をお持ちいただければ、その場で次のアクションをご提案します。
2. 自覚症状がないことは、「重症ではない」を意味しない
糖尿病の最大の特徴は、HbA1c 8 を超えるまで、ほぼ自覚症状がないことです。「異常なのに何も感じない」状態が、診断を遅らせる一番の理由でもあります。
けれども血糖が高い状態が続くと、自覚症状が出る前に血管・神経・腎臓・眼底にダメージが蓄積していきます。糖尿病が見つかった時点で、すでに合併症が始まっているケースも珍しくありません。「症状がない=安心」ではなく、「症状がない今がベストタイミング」と捉えていただきたいのです。
3. 5 つの初動 (発見後 1 ヶ月以内に)
3-1. 健診結果を持って、内科を受診する
「要医療」と書かれているなら、必ず受診を。「要再検査」も同様です。当院では、健診後の初診は所要 60 分でしっかりお話を伺います (保険適用)。
3-2. 食事の見直し (3 つだけ)
- 清涼飲料水・甘い缶コーヒー・ジュース → 水・お茶・無糖コーヒーに置き換える。
- 白ごはん・うどん・パン主体の食事 → 野菜・タンパク質を先に食べてから炭水化物を。
- 夜遅い食事 (22 時以降) → 食事の時間を 21 時までに前倒し。
3-3. 軽い運動を毎日 20 分
運動は「種類」より「頻度」。毎日 20 分の早歩き or 階段を、まずは 1 ヶ月続けてみてください。HbA1c が 0.3〜0.5 下がる方が多くいらっしゃいます。
3-4. 体重を 5% 落とす目標
体重 70kg なら 3.5kg、80kg なら 4kg。これだけで境界型は正常範囲に戻ることがしばしばあります。
3-5. 1〜2 ヶ月後に再検査
HbA1c は 1〜2 ヶ月の平均なので、生活改善の効果は約 2 ヶ月後の検査で現れます。当院では月経後の女性は時期を調整して再検査することをお勧めしています。
4. 放置するとどうなるか — 5 年・10 年・20 年後
「あと 1 年だけ様子を見る」を 10 年繰り返した方を、私はたくさん見てきました。糖尿病の合併症は、概ね以下のタイムラインで進行します。
- 5 年後 — 神経障害 (足のしびれ・冷感) が出始めます。
- 10 年後 — 網膜症 (視力低下)・腎症 (尿蛋白) が顕在化。
- 15-20 年後 — 透析導入のリスク、心筋梗塞・脳梗塞のリスクが 2-3 倍に。
逆に言えば、HbA1c を 7.0 以下にコントロールできれば、これらの合併症の大部分は予防可能です。発見した時に始めるのがベストタイミングです。
5. 「治療=インスリン注射」ではない
多くの方が「糖尿病になったらすぐ注射」と心配されますが、初期 (HbA1c 6.5-8.0) の方の大半は、生活改善 + 内服薬の組み合わせで管理できます。
近年は GLP-1 受容体作動薬 (週 1 注射) や SGLT2 阻害薬 (内服) など、副作用が少なく体重減少効果のある薬も選択肢に入ります。注射が必要なのは、HbA1c 9 を超えた場合や、内服薬で目標到達できない場合に限られます。
糖尿病は「闘う病気」ではなく、「付き合っていく病気」です。けれども付き合い方を間違えると、合併症という大きな代償を払うことになります。早期発見、早期介入が、もっとも辛くない選択肢です。
— 院長 神山隼人 (糖尿病内科指導医)